カルト宗教の思い出

2026年04月13日 20:58
カテゴリ: 雑談



 二十年近く前、カルト教団の会合に潜入したことがある。


 当時大学生だった私は青森県に住んでいた。

 その日はほんとにあった!呪いのビデオの新作を借りようと近所のゲオに行き、ついでにシリーズ一本目も借りて、学生寮の友人と一緒に酒でも飲みながら観ようと思っていたのだが

 ホラーコーナーにしゃがんでDVDを物色していると、背後から唐突に誰かに話しかけられた。

 聞いたことのない声。津軽なまりがすごかったのですぐ地元の人だと分かった。振り向くと、小柄な男がニコニコしながら立っている。

「ホラー映画好きなの?」

 何が目的なのかわからなかった私は適当に「そうすね」とだけ答えたが、男は相変わらずニコニコしながら言う。

「今からラーメン食べ行かない?」

 まさか近所のゲオがナンパスポットだとは知らなかった。

 そういう趣味はなかったのだが、変わった人間に対する好奇心と、お腹が減っていたので(いざとなったら逃げればいいか)と、ホイホイついていくことにした。

 男の車に乗りラーメン屋に向かう。彼の名前はK。歳は二十五で市内で大工をやっており、引っ越したばかりで友人もいないとのことだった。

 私に声をかけてきた目的は分からない。本当にラーメン食いたかっただけなのか

 しかし、いつまでたっても店に着かない。かれこれ一時間は車を走らせている。


 人気のないところに連れて行かれる前に逃げようかと思っていると、やがて車はショッピングモールの中に入った。

「ここでラーメン展やってるから、好きなのを食べよう」

 私は確か博多濃厚とんこつラーメンを食べた。味は覚えていないが、割り勘だったことはよく覚えている。

 食べ終わると我々は再び車に乗り、真っ直ぐ帰り始めた。

 まさか本当にラーメン食べるだけに声をかけたのか?特に話すこともなく窓の外を見ていると


「君、幸せ?」

 唐突に訊かれた。

 戸惑っていると、Kは続けてこう言う。

「『霊友会』って知ってる?」

 霊友会(れいゆうかい)は、1930年に久保角太郎と小谷喜美によって創始された、法華経を信仰の基盤とする在家仏教教団である。先祖供養を重視し、日常生活の中での自己改革や「つどい」によるお互いの成長を目指す活動を行う。本部を東京都港区に置き、関連教団の分派も多い。(ウィキペディア)

 当時はそんなこと知らなかったので(ヤバい宗教に勧誘された)としか思わなかった。しかし、現にKの言葉を聞くと明らかにヤバい宗教としか思えなかったのだから仕方ない。

「ねぇ悩みごとない? 霊友会に入れば全部解決するよ。お金も人間関係も、仕事や恋愛も全部うまくいくし、それにギャンブルも勝てるようになるよ」

 ラーメン一杯も奢れんような奴が金も女も上手くやれてるとは思わなかったが、とにかく凄い自信である。

「今度集会があるから一度おいでよ」

 入信するつもりはなかったが、カルト教団の集会に潜入する機会なんてそうそうないかもしれないと、私は「見学するだけ」という約束をつけて参加することにした。


 後日、指定されたスーパーの駐車場へ行くと、およそ二三十人の人だかりができており

「おー◯◯君よく来たね」

 Kは軽く私を仲間に紹介する……こともなくすぐに私を車に乗せ

 なぜか街中ではなく山の方に向かって走り出した。

 どこその施設や会議室でやるものだと思っていた私は焦った。それに駐車場にたくさんいた人達がこの車についてきていない……

 出かける前に「俺が夜までに帰らなかったら通報してくれ」と寮の後輩に告げては来たものの、いざ本格的に拉致られるとなるとどうにもならない。

 私はポケットに忍ばせたメリケンサック(後輩から借りた)を握りしめると、もしも外に人の姿が見えたら車を飛び出そうと、そう思って身構えていたのだが、山道には人影も対向車も一向に見えなかった。どこに連れて行かれるのかと不安に駆られながらしばらく車に揺られていると

「着いたよ」

 目の前にはボロボロの木造アパートのようなものがあった。山の中にこんな場所があるとは驚きだった。


(俺はここでバラバラに解体されてミッドサマーみたいな教団の生贄にされるんだ……)

 こんなことならもっと殺傷力の高い暗器を持ってくればよかった。

 後悔してももう遅い。

 お腹を抑えながらカンカンと金属音の鳴る階段を上がり部屋のドアを開ける。日に焼けた畳、汲み取り式のトイレ、異様な匂いと気配、奥にあるふすまの中から微かに人の声が聞こえる。

 Kがふすまを開ける。

 異様な光景だった。

 中は8畳の仏間で、十人ほどの信者らしき人達が正座して何かお経のようなものを読んでいた。老人から子どもまで、制服姿の女子高生もいた。

 メトロン星人の宇宙船でもあるのかと思っていたのだが、いやそれより数倍衝撃的な光景だった。しばし唖然としていると、信者達は読経を止めて振り返って私の方を見た。

「ようこそ、新しい仲間達」

 奥に座る偉そうなおばさんが私を見て言う。どうやら私はすでに仲間になっていたらしい。見学するだけの約束だったのに。

 そのおばさんは霊友会関東支部長らしく、なんというか東京生まれの上沼恵美子みたいな感じだった。

 私は促されて、その支部長の前に端にいたガリガリにやせた男といっしょに座らされた。


「あなた達の悩みは何?何を叶えたいの?」

 どうやらこの男と私が新しい仲間のようである。

 男は小さな声でボソボソと願い事を言うと(小声すぎて聞き取れなかった)、支部長はウンウンとうなずき

「ご先祖様に心を込めて供養をすれば全て叶いますよ」と、マネキンのような笑みを浮かべながら言った。 


 (そんなこと信じられるかよ……)と思ったが、今俺はそんな教えを本気で信じている人達に囲まれている……

 間違ったらどうなるかわからない……

 支部長が今度は俺に訊く

 とりあえず適当なことを言ってこの場をしのいでおこう……

 しかし……

 ふつふつと沸き上がる感情が恐怖を押しのけて口から出た。

「俺は悩みなんかありません」

 思わず言ってしまった。
 こんな時に自分で強いと思ってるやつに「NO」と断ってやりたくなってしまった。

 支部長はハトが豆鉄砲食らったような顔で「無いの? 一つも?」と聞き返してきたので

「俺は自分で壁を乗り越えて夢つかむんで」と言い放った。

 囲んでいる人数は約十人、若い男性はKのみ、あとは老人と子ども……高校時代空手もやってたし、本気で戦ったら十分に勝てる。

 ポケットのバグナクもといメリケンサックを握りしめ臨戦態勢に入ると

「……そう残念だわ、じゃあお帰りになって」

「送って差し上げて」

 私はあっさりと解放された。

 Kと一緒にアパートを出て再び車に乗せられると一気に緊張が解けてきた。それに、安心するとともになんだか少しもったいないような気もしてきた。

 もっとあの異様な雰囲気を体感しておけばよかった。なかなか見られる様なものではなかったのに


 その後、クルマが発進する直前に、後部座席に座る私の隣に突然誰かが乗り込んできた。

「入信しないんですか?」

 乗ってきたのは石川絵理(バトロワの内海幸枝役の人)によく似た綺麗な女性だった。車はそのまま発進した。

「実は私も人生うまくいってなかったんですけど、霊友会に入ってから全部変わったんです」

 色仕掛けでなんとか入信させようとしたのだろう。内海はスーパーの駐車場に着くまでずっと霊友会の素晴らしさを熱弁していた。彼女の目は推しのアイドルを語る乙女のようにキラキラしており、ボデイタッチでもされてたら危うく戻って入信していたかもしれない。

 それでも断ってクルマを降りると、Kは軽い別れの挨拶をしてあっさりと去っていった。


 その後、勧誘が学生寮にまで来たらどうしようと不安であったが、結局信者が押しかけてくることもなく、Kからも連絡は来なかった。



 以上である。

 思い返したら、別段恐ろしい目には遭ってはいない。

 ただ、新興宗教に陶酔した信者達が山奥のボロアパートで怪しい集会をしているということ、そんな人達が自分のすぐ近くにひっそりと住んでいるということ、行きつけのスーパーがその集合場所になっていたこと……

 その事実のせいでどんな心霊スポット探検よりも恐ろしく思えた。

 欲望・悲哀・カタルシス……様々な思いが混ざって沈んだ沼のような場所で、ココロにスキマのある人は救いを求めて入信してしまうのかもしれない。

 まぁ私はたとえ持病が治ると言われても入ろうとは思わないが

 しかし

 彼らは違法行為を行っているわけではない。ただ願いを込めて先祖の供養を熱心にしているだけである。

 だからこそ怖かった。


 やはり私はお化け系が好きなのだが、こういうヒトコワもありである。



 次の怪談会で訊いてみようかな……
 でも霊友会の人がいたらどうしよう。


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